事例紹介
株式会社JTB様では今、社会課題の解決と事業の両立を目指して、新たなCSV(注)ビジネスモデルの開発を進めています。その1つがEV(電気自動車)モビリティ観光活性化事業。EVの導入と活用により、環境にやさしい観光地ブランドの確立と新たなECO旅行商品の開発を進めると共に、クリーンで低炭素な社会の実現に貢献しようという事業です。
この事業において日本ユニシスはJTB様と協業し、EV旅行者向けの充電インフラの整備、充電サービスの提供、EV観光の情報提供などの分野での連携を推進しています。そのベースとなっているのが、EV/PHV(プラグインハイブリッド車)向け充電インフラシステムサービス『smart oasis』です。
JTB様に伺ったEVモビリティ観光活性化事業の詳細と日本ユニシスとの協業の経緯などをご紹介するとともに、今回、舞浜エリアでいち早く『smart oasis』を導入されたホテルオークラ東京ベイ様の事例をご紹介します。
(注)CSV:Creating Shared Value=共有価値の創造
社会課題の解決と企業の収益事業の両立を図り、社会と企業が共に持続的な発展をしていこうという考え方
CSR(企業の社会的責任)を一歩超える経営戦略の概念としてグローバルに注目されています
SUMMARY
- smart oasis展開による、安心して電気自動車を利用できるインフラの整備
- 観光を基軸とした環境問題への取組み
- 企業・地域・社会の連携で企業益と公共益を両立し、より良い未来の実現へ
Page index
- USER PROFILE
- 社会課題の解決をテーマに新しいビジネスのかたちを追求
- 観光地と共にEV普及のためのサービスインフラ整備を推進
- EVモビリティ観光活性化事業でEVによる地域内の回遊を促進
- 各社の強みを持ち寄り新たな価値を創出
- USER PROFILE
- 充電スタンド設置によるお客さま満足度の向上と環境に優しいホテルの実現
株式会社JTB様
User Profile
Interview
株式会社JTB
営業推進本部ソーシャルソリューション地域交流局
環境マーケット担当プロデューサー
黒岩 隆之氏
「そもそもJTBは101年前、国内に強い産業はなくまだ貧しかった時代に、観光産業による外貨の獲得と地域の活性化により日本を豊かにしようという目的を持って生まれました。定住人口が減少に向かう現在、ソーシャルソリューション事業は101年前の理念に立ち返り、再度観光という切り口で交流人口の増加と地域の活性化を生み出さなくてはなりません。大きな社会課題をとらえて、様々な企業、地域を結びつけて新たなビジネスモデルを構築していく必要があるのです。すでにマスツーリズム的な発想は通用しません。
観光という基軸に健康、環境、エネルギーといったテーマや、多様化する趣味、嗜好などを幅広く掛け合わせて、新たな事業領域を拡大していこうと考えています」
JTBのソーシャルソリューション事業
観光地と共にEV普及のためのサービスインフラ整備を推進
社会課題の解決をテーマにしたビジネスモデル開発の取組みの中で、大きな課題として浮上してくるのが環境負荷の軽減です。同社では早くからこの課題に対応した商品開発を行ってきていますが、その発展としてEVに着目した取組みが開始されたのでした。
「観光により人が移動すると環境負荷が増しますが、特にクローズアップされるのがCO2の排出です。そこでJTBではこれまで、カーボンオフセットのコストを組み入れた旅行商品の販売や、電動アシスト付自転車を観光地で利用できる『旅チャリ』の展開などを進めてきました。
これを一歩進め、環境省の“smart move”運動に呼応して、観光地の事業者と密接な関係のあるJTBができることは何かと議論する中で、EV普及の支援ということに注目しました。観光地に充電スタンドを設置し充電サービスを提供することは、EVの普及に大きく貢献でき、低炭素な観光地づくりという社会的意義のある事業になります。これを大きな目的としながら新たなビジネス展開も可能になると考えました」(黒岩氏)
こうして2011年12月、同社はsmart oasisを展開する日本ユニシスと協業し、観光・宿泊施設のEV向けサービスインフラ整備の支援を開始しました。
※smart move:環境省が推進する地球温暖化防止国民運動の一つで、通勤・通勤・買い物・旅行など、日々の「移動」を「エコ」にする新たなライフスタイルを提案・推進するもの。 https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/smartmove/about_smartmove/
充電インフラシステムサービス『smart oasis』の概要
smart oasisはEV/PHV向け充電スタンドとデータセンターを無線ネットワークで接続し、EV/PHVユーザー向け、充電スタンド設置者向けに様々な機能をクラウドサービスで提供します。「利用者認証」「課金・決済」の仕組みの提供や、「利用情報(利用時間、利用履歴)」「位置情報」「リアルタイム利用状況(満空情報)」の情報収集と提供、および充電スタンドの利用予約などが行えます。
また充電インフラを設置する商業施設や公共施設の皆様に対して、充電インフラ管理の効率化だけでなく、PR効果や観光振興といった付加価値をご提供します。
政府も充電インフラ整備に大きな支援策を実施
このほか自動車メーカー4社がEVやPHV向けの充電インフラ網の拡充を共同で推進していくことを発表しています。
EVモビリティ観光活性化事業でEVによる地域内の回遊を促進
「現在、ホテルオークラ東京ベイ様をはじめ、全国のホテル、旅館、観光施設様に対して、目的地充電である普通充電スタンドの設置を支援しています。また、EVでの移動も安心なホテル、旅館というPRや、EV利用を特集したオリジナルの『るるぶ』によるPRを行っています」(黒岩氏)
JTB様では現在、観光地でのEV向けサービスインフラ整備を足がかりとして、新たなEVモビリティ観光活性化事業を進めています。環境にやさしい観光地といったブランドの構築と、EVツーリズムでのECO旅行商品の開発で誘客を促し、併せて地域内のEVでの回遊を促進しようというねらいがあります。
「充電インフラとEVをセットで配備し、観光地を訪れたお客さまに提供することを考えています。EVは長距離を移動するには心配がありますが、地域内を回遊する2次交通の足としては高い優位性があります。EVの活用により、地域を巡っていただくツーリズムの可能性に期待しています」(黒岩氏)
充電サービスの利用会員向けに様々なサービスを提供
また、EVユーザーが充電サービスを利用する際には、ユーザー認証と課金を行う仕組みが必要ですが、同社ではsmart oasisと会員カードの導入でこれを実現しています。
「現在、日本ユニシスと共同で“おでかけCard”を発行しています。“おでかけCard”では、観光・宿泊施設での普通充電サービスとNEXCO中日本およびチャデモチャージが提供する急速充電サービスのご利用が可能になっています。このカードの利用で、会員は充電スタンドの位置情報と利用の可否やその周辺の観光情報を得ることができ、管理者は会員ごとの利用履歴のログが参照できます」(黒岩氏)
会員の組織化を進めることで、様々な情報サービス、特典サービスの提供を梃子にした会員ビジネスの可能性も見えてきています。
おでかけCardとは
EV/PHVライフをもっと楽しくより便利に快適にすることを目的とした、JTBと日本ユニシスが発行する、EV/PHV充電認証カードです。
宿泊施設などでの普通充電器に加えNEXCO中日本が提供する急速充電器でご利用いただけます。チャデモチャージ機能付きのおでかけCardではさらに充電網整備推進機構が展開する充電サービスもご利用いただけます。
また、サイモンズ・ポイントシステムとの連携で、お得なポイントやクーポンの取得、イベント参加など、様々な付加価値を提供しています。
各社の強みを持ち寄り新たな価値を創出
日本ユニシスとの協業を選んだきっかけについて、黒岩氏は次のように話します。
「日本ユニシスさんは日本で先駆けてsmart oasisという充電インフラシステムサービスを提供していました。我々としては迷うことなく、協業して全国の観光地で充電インフラの整備を進めることにしたのです」
また、協業によるメリットについてはこう述べています。
「我々はBtoCのビジネス中心、日本ユニシスさんはBtoBが中心です。お互いの強みを持ち寄ることで、1社単独では提供できなかったサービスの開発と提供ができるのです。それぞれの道のエキスパートが協業することに、大きな将来性と価値を感じています」
真のビジネスパートナーとしての立ち位置の確立
EVの普及促進を大きなテーマにして進められる新しいビジネスモデルへの挑戦は、JTB様に今までにない成果をもたらしていると黒岩氏はみています。
「この事業ではJTBとしての立ち位置が大きく変わったと感じています。関係する企業、行政、設置をしていただく観光地に対して、我々はただ単に旅行商品を販売するという立場から、ビジネスパートナーとして一緒に事業を創っていく立場へと立ち位置が変わりました。協業、共創していくという立ち位置を確立できたことは大きな成果だと思います」
また、地球温暖化対策や都市計画といった、これまで直接関わりがなかった行政セクションや、お付き合いのなかった業種の企業との関係を築けたことも成果となっているようです。
※本インタビューに掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。
※日本ユニシス株式会社は2022年4月1日を以てBIPROGY株式会社へ社名変更いたしました。